台湾コレクターが日本アートの6割購入、台北市はアートを政策に採用

台湾アート事情を語る講師

台湾でのアートフェアについて会場の質問に答えるトニー・チャン氏(左)とキャロル・ヤン氏=福岡市のアジア美術館で、9月9日

日本の現代アートの6割以上が台湾のコレクターに買われ、アジアの現代アートの9割近くは中国系の人々によって買われている――こんなアジアのアート事情が、アートフェア主催者らによる講演会「海外コレクターが見る、日本の現代アートの魅力」で紹介された。2013年から台湾で始まった、現代日本アートのみを扱うアートフェア「インフィニティ・ジャパン」が成功し、この影響で台北市が政策に「芸術都市構想」を盛り込んだことも紹介された。

講演会は、アートフェアアジア福岡(AFAF)の中で9月9日に開かれた。台湾で画廊を経営する張哲嘉(トニー・チャン)氏=上写真左=と、アートフェア「インフィニティ・ジャパン」実行委員会の楊青芬(キャロル・ヤン)氏=同右=が登壇した。チャン氏が台湾のアート市場についての背景説明をした(前稿参照)後、インフィニティ・ジャパンの成功についてヤン氏が話した。

アジアのアート流通図

写真1:アジアのアート流通図。日本と韓国から、中国本土、香港、台湾へ売られる=TCCIAの資料から

ヤン氏はまず、日本と韓国で作られた現代アートが、アジア市場でどう流通しているかを図説した=写真1参照。アジアの現代アートをコレクションするのは、中国本土、台湾、香港の人々で、購入者の8~9割が華僑(中国人系)であるという。いずれも漢字圏なのは「偶然ではない」と見る。最も大きな流れは、日本から台湾への動きだ。「日本の現代アートのうち、海外で買われている作品の6割以上は台湾の収集家による」と、ヤン氏。ほとんどは草間彌生、村上隆、奈良美智らだという。

チャン氏が理事長を務める台北文化創意協会(TCCIA)は、「新しい市場を開拓しなくても、すでに日本の現代アートを受け入れる土壌がある」と見て、インフィニティ・ジャパンを主催。2013年から毎年、違う都市で開いてきた=写真2参照。初回の13年は台湾第2の都市・高雄市、第2回の14年が台北と高雄の2都市を巡回、第3回の15年が台中市、第4回の16年、第5回の17年は台北だった。

インフィニティ・ジャパンの開催都市

写真2:インフィニティ・ジャパンは開催都市を毎年のように変えてきた=TCCIAの資料から

初回にアートイベントの動員記録更新
4回目で来場5万人超、場所も高級高層ビルや五つ星ホテルへ

第1回の高雄はいきなり1万2千人が来場、台湾での過去のあらゆるアートイベントの動員記録を塗り替えたという。有名百貨店「新光三越百貨」(三越伊勢丹のグループ子会社)のワンフロアを贅沢に借り切った。高雄が当時、現代アートで盛り上がっていたこともあり、大成功だった。

写真3:インフィニティ・ジャパンの動員数。初年から1万2千人を集めた=TCCIAの資料から

14年は巡回展で、台北と高雄で開催。動員は1万2千人。

15年は台中の、富裕層が集中する住宅街で開いた=写真4参照。伊東豊雄が設計した有名建築物もある高級住宅区だ。主催者側にはこの時、気づきがあった。セレブのすごい豪邸を見学させてもらっても、ほとんどアート作品が見当たらなかったというのだ。「すごい違和感。アートを楽しむこと、もっと生活の中に採り入れることを、人々に普及させたい、と強く思った」とヤン氏。そこで、住宅空間や生活空間の中に作品を展示し、アートの見せ方を実例で示した。講演やセミナーを通じて、アートは建築と同じく生活であることを気付かせる活動もしたという。

写真4:インフィニティ・ジャパン2015の様子=TCCIAの資料から

16年は本展前の1カ月間、プレイベントをした。台北にある超高層ビル「台北101」の最高層フロアを使い、厳選作を送ってもらって展示した。前年の盛り上がりが注目され、「個室でゆっくりVIPを案内したい。期間を長く設けて欲しい」との要請があったためだ。政府のセレモニーも開かれ、政財界のVIPが訪れて話題となった。動員は5万人を超えた。

この年の成功が「象徴的だった」とヤン氏。盛り上がりを見て台北市長は、「芸術のある都市」を政策として打ち出したいと、アート政策についての助言を求めて来た。初めての取り組みとして、日本から作家本人を招いて、ファンが直接スーパースターと触れ合える機会も設けた。また、アーティストに部屋に絵を描いてもらうといった「前代未聞の」(ヤン氏)イベントもした。本展のフェアは、動員は5500人。

インフィニティ・ジャパン2017

写真5:インフィニティ・ジャパン2017の様子。五つ星ホテルに作品を飾り、アートのある暮らしを宿泊者に体験してもらった=TCCIAの資料から

17年にも五つ星ホテルのラウンジを2カ月借り切り、プレイベントを開いた=写真5参照。実際の部屋の中に作品を飾ることで、宿泊客は住空間にアートのある生活や雰囲気を体験できる。プレイベントの来場者は1万6千人、フェア本展は4800人を動員した。特筆すべきは、来場者は前年より減ったものの、売上高が前年の3倍に伸びたことだ。取り組みの「芽が出て、すでに結果が出始めていると推測する。手ごたえを感じている」と、ヤン氏。

ターゲットは35歳以上、ブランド好きの富裕層
来年は2月にロイヤル・ニッコー台北、出展画廊を募集中

ヤン氏によると、インフィニティ・ジャパンが狙っているのは、アートに強い関心を持つ35歳以上の富裕層だ。質の高い生活を追求し、高級ブランドを愛好するなど、高い経済力・消費力のある人々を対象にしている。「日本の現代アートしか扱わない唯一のフェアという特徴を、今後も持ち続けたい」と言う。

参加する日本の画廊や作家の数も増えている。16年は11画廊30以上の作家が、17年は13画廊50人以上の作家が参加した。第6回となる来年もすでに、17画廊50人以上の作家が出展予定だ。台北の五つ星ホテル「ホテル・ロイヤル・ニッコー・タイペイ」(オークラ・ニッコー・グループ)を会場に、2月23~25日に開かれる。今年から引き続き参加する画廊もあるが、3分の2しかまだエントリーが決まっておらず、出展画廊はいまも募集中という。

「福岡、大阪、神戸、東京。場所ごと、画廊ごとに作家の顔ぶれや色合いが違う。ぜひいろいろなギャラリーに参加してほしい」と、チャン氏は話している。

(この項終わり)(20171007、元沢賀南子執筆)