世界のアート市場、売上高グラフ

世界のアート市場は2014年がピーク。リーマンショックからは早々と回復した

 世界のアートマーケットは7兆円規模、高価格帯と低価格帯に二極化しており、市場の成熟によってオークションが減り画商取引が増えている――こんな現状が、アートフェアアジア福岡の特別講演「世界のアートマーケット」で9月9日、紹介された。

 講師は、オークション会社「クリスティーズジャパン」の大胡玄氏。個人コレクターの出品・落札を担当している。

 大胡氏によると、オークション、画廊、アートフェアを含んだアート市場全体は、2007年、08年と年6兆円台の取引があったものの、リーマンショックで09年には一気に395億ドル(4兆円超)まで落ち込んだ。だが、不動産や株などの「相場」がある市場と違って1点もののため、高額商品が出れば跳ね上がる市場特性で、10年には570億ドルに回復。14年には682億ドルを記録した(グラフ上参照、データはオークションハウスによる)。

 クリスティーズが扱うのは、このうち、最多の米国(NY)で36億ドル、欧州(ロシア、中東、インドを含む)で21億ドル、アジア(香港)で8億ドルだ。08年5月から香港でもオークションを開始した。特に、お得意様のみ対象で事前に高額商品を扱う「イブニングセール」で1点何億もする作品が落札され、08、09年と中国市場が形成された。現在は落ち着いたが、中国市場は3割ほどを占める常連となっているという。

 アート市場の二極化は、アーツ・エコノミクスの調査データで示された。2016年の総売上で最多の39%ずつを占めるのが、1点当たり50万ドル(5500億円)以下の層と100万ドル(1.1億円)~1000万ドル(11億円)の層だ。低価格帯の市場を形成しているのは起業で成功した若手コレクターらで、高価格帯はリーマンショック後にダブついた資金を新たに入れ始めた投資家だという。

アート価格二極化のグラフ

価格帯は低価格と高価格に二極化=2016年

 特筆すべきは、高額取引の多さだ。100万ドル(1.1億円)以上が全体の半数近くを占めており、特に1000万ドル(11億円)~5000万ドル(55億円)が8%、5000万ドル(55億円)以上も2%に上る。この高額商品の市場は、リーマン後に形成されたという。

 こうした高額取引を支えるのは、NY、ロンドン、香港など世界中に支店やネットワークを持つ、ガゴシアン、デビッド・ツヴァイナー、ペロタン(六本木に今年オープン)などの、資金力のある巨大ギャラリーの存在だ。ニューヨーク・タイムズの報道では、2015年から今年6月までにNYで46の画廊が閉鎖したという。つまり、1億円以上の高額商品を扱う巨大画廊か、若手を相手に4000~5000万円台の低価格帯を狙う画廊か、どちらかでないと生き残れないようだ。

 一方で、アート市場全体は成熟化が進んだと、大胡氏は見る。画廊間取引が増えてオークション取引が減ったからだ(図参照)。15年に比べて、市場全体はほぼ横ばい(450億ドル)なのに、画商間は232億ドルから279億ドルへと20%増え、オークションは211億ドルから169億ドルへと19%減った。オークションは最初の設定金額は低いためすそ野は広く、誰でも参加でき、競り上がりで最後は一人が残り、落札する。画商取引は逆で、最初に高い金額が設定されており、交渉次第で下げていく。「売る方が高く売りたい時には画商取引を利用する。市場が成熟すると画商間取引が増える」と大胡氏。

画商取引増加のグラフ

画商間取引は増加、オークションは減少

 ほかに、人気分野の変化もある。かつて人気があった印象派や近代絵画は、戦後・現代アートに比べて下落率が激しく、凋落が見て取れる。今売れているのは戦後から現代アートで、市場全体の52%を占める。こちらは若いコレクターが買いたがる。2016年の売上ランキング1位はウイリアム・デクーニの70億円で、バスキアも60億円超だった。今年も1位はバスキアの1123億円と、現代アートは人気が高い。中国の現代作家も高額記録を続けているという。現存の日本人作家で人気があるのは草間彌生、奈良美智、村上隆だが、1950年代、60年代の日本の戦後美術「具体」派もコレクターがいるという。

 印象派は、所有者の世代交代が起きている。20年~40年ほど前に買ったコレクターが手放すため、大量にオークションに出品されている。点数は増えたが、1点ごとの価格が下がっているため総額もさほど増えていない。ただ、有名作家の名品であれば価格は上がる。ルノアール、セザンヌなどはイブニングセールに出品されて、70億円などで落札された。

 新しい動きとして、インターネットでのオンラインセールが伸びているという。ヤフオクやEbayなど通信オークション会社のほかに、クリスティーズやサザビーズなどもhpでもオンライン・オークションを開いている。いま、全体の9%、49億ドルがオンライン販売だ。品物を実際に見ないで買う人は今後も増えそうと見る。

(この項続く)(2017・10・02、元沢賀南子執筆)