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第1回 ファッション業界にオンデマンドを セーレン

 

IT化で繊維業界を変革する

一貫生産&AIが小ロット・短納期・低コストを可能に

「私だけの一着」オンデマンド化をファッション業界で実現

セーレン・川田達男会長会見

 

 

 

スマホやタブレットの画面上でバーチャル着替えをして服を選び、「私だけの一着」を注文すると3週間以内に届く――こんなビジネスを展開しているのが、繊維業のセーレン(福井市)だ。2017年4月にかけて都内や大阪で直営店5店が開店するのを前に3月17日、日本記者クラブで川田達男会長が記者会見した。早々にIT化を導入したことと、製糸から織、染、縫製、販売までの全工程を内製化する、他に例を見ない態勢が可能にしたビジネスモデルという。オンリーワンの強みは海外展開も支え、過去5年の増収増益、特にこの2年は連続過去最高益という好業績につながっている。

「私だけの一着」を注文できるサービスは「メイク・ユア・ブランド」という。客は店舗で自分の前後左右の顔写真を撮ってもらい、試着品でサイズ合わせをする。あとは、店内にある端末でワンピースやボレロなどの色・柄・デザインを47万通りの組み合わせから選ぶ。等身大のモニターに、自分の顔と選んだ服が映し出されるバーチャル試着で仕上がりを確認して、購入する。もちろん素材も指定できる。一度購入すれば、次回からは自宅からでも服を選ぶことができる。

組み合わせ自由なセミオーダーメードの一点ものなので、価格は3~8万円とやや高め。エグゼクティブ向けのパーティードレス需要を見込んだ。その後、2~4万円台の妹レーベル「ブルーライン」も発売した。

当初は福井の本店内と、日本橋と新宿の高島屋に直営店を開店した。今年2~4月に東京、名古屋、大阪に5店舗を相次ぎ作る。海外でも、パリへの出店を計画中で、いずれニューヨークにも進出したいという。

「パーソナル・オンデマンド・個衆の時代」

必要なものだけをオンデマンドで作る「自分ブランド」だ。これまでの、大量生産して大量に在庫を抱え大量に廃棄するという衣料品業界の商習慣を変える「革命」と意気込む。

1着から作れるのは、先端技術を駆使した一貫生産システム「ビスコテックス」を開発したためだ。AIによって、客の選んだデータは自動的にCAD(設計ソフト)からCAM(製造ソフト)に流れる。設計した通りに、色柄風合いがプリントで表現できる。

例えば、つるんとしたポリエステルの布に、デニム地風のプリントをしたワンピースは、ソフトデニムにしか見えない。レース風の仕上がりにも、刺繍風にもできる。

この色合わせの技術が、全工程を内製化してきたために蓄積できた同社ならではの強みだ。機械だけでなく、ソフトやインクの技術まで伴わないと、設計通りに再現できないという。

「マスからパーソナルへ。計画生産からオンデマンドへ。いいものを安く大量に大衆に売る時代から、人とは違う私だけのもの、個衆一人ひとりに違うものを売る時代へ。それが可能になった」と川田会長。

10年前に破たんした鐘紡の製糸部門を買収したことが、結果的に全工程の内製化を完成させた。

IT、AIで21世紀型デジタル生産に挑戦

同社はもともと明治22年創業の繊維メーカー。繊維業は、1960年代までは外貨を稼ぐ基幹産業だったが、70年代のニクソン大統領時代に輸出が規制され、不況業種に。80年代後半に川田会長が社長を引き継いだ時は存亡の危機にあった。

川田社長は88年に5つの経営戦略を立てた。①ビジネスモデルの転換②非衣料・非繊維③IT化④グローバル化⑤企業体質の変革。先見の明と言えよう。今も同じ戦略を取っている。

非衣料戦略として取り組み、大きく成長したのが自動車の内装材だ。合成皮革に、様々な色柄や風合いをプリントで表現する。幸い、内装の高級化、差別化を模索していた自動車メーカーの需要とぴったり符合した。

どんな素材でもオンデマンドでプリントできる技術は、繊維以外の素材にも応用できる。例えば、好きな色柄にカスタマイズできる住宅の外壁材は実用化されている。北陸新幹線のエグゼクティブクラス「グランクラス」の内装ではアルミの板に和風の模様をプリントした。羽田空港や東京ドームなど、大空間用の看板はいくつも納品してきた。

かつて品質もコストも納期もトータルではマネジメントできなかった繊維業界で、全工程内製化を実現させた川田会長。これが世界でも他にはない、最大の差別化になったという。結果的に海外24拠点、利益の75%を海外で生むという構図になった。

生産工程を押さえていることは結局、オンデマンド生産も可能にした。消費者のニーズに合ったものだけを小ロット短納期で安く作る。IT化を進めてきたことが、技術面でも課題を解決させた。

川田会長は今後も、ビスコテックスのように、IT、AI、ビッグデータなどを駆使したシステムで、21世紀型のデジタル生産に挑戦したいという。

「オンデマンドなら、ファッション業界にとって大きな課題だった在庫問題が解決できる。今後、地球の人口は90億、100億人と増え、資源は限られてくる。無駄なものを大量生産していたのを、売れるものだけ作る省資源の業界に変えたい。最終的に、それは繊維だけでなく、モノづくりの理想の在り方ではないか」

繊維産業の常識をひっくり返しつつある川田会長。オンデマンド・ファッションも、6、7年前には具体的なビジネスデザインが出来上がっていたという。目線は高く、視野の先は遠い。次はどんなIT繊維革命を仕掛けてくれるだろう。

(2017年3月19日執筆)

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