日本のアート、感性近く「新しさ」に人気
日本の現代アートが台湾で人気なのは、アニメや漫画で日本文化を受け入れる土壌ができており、アートを買う「新しいもの好き」な富裕層がいるから――こんな事情が、台湾でのフェア主催者らによる講演会「海外コレクターが見る、日本の現代アートの魅力」で示された。日本の現代アートに特化したアートフェアを2013年から開いている団体の実行委員が、アートフェアアジア福岡(AFAF)の中で9月9日、講演をした。
登壇したのは、台北で日本の現代作家を扱う画廊「ユースペース」を経営する張哲嘉(トニー・チャン)氏=上写真=と、現代日本アートだけを扱うフェア「インフィニティ・ジャパン」実行委員会の楊青芬(キャロル・ヤン)氏。
チャン氏はまず、世界の現代アート市場がリーマンショックの前後で変化したと指摘した。現代アートが注目されるようになり、また、主な購買層の年齢が若くなったと見る。オークションでの取り扱い点数が多い現代アート作家は、2016年で1位が村上隆、5位が奈良美智=グラフ1参照=と、日本人作家の人気が高いことも示した。
そうした中、アジアでもここ数年、多くのアートフェアが開かれている。それらに出展する日本の画廊は、全体の平均1割ほどを占めるが、台北では15~20%近くと高い=グラフ2参照。参加数でも、日本からは、香港、ソウル、台北には100~300近い画廊が参加している。アートプライス・コムの調べでは、都市別のオークション収益は、アジアでは香港、北京、上海、広州に次いで、台北が世界9位という=グラフ3参照。フェアの規模としては上海の方が大きいのに、台北の方が日本の画廊の出展数の伸びが顕著な理由を、チャン氏はこう見る。
「台湾にはもともと親日家が多い。伝統的なものだけでなく、45歳前後の台湾市民は日本のアニメやアイドル、漫画などに親しんで育ち、日本人に感性が近く、抵抗感がない。40歳前後の台湾人にとって既存のアートは水墨画や陶芸など。そうではない、新しいものをコレクションにしたいと思っている彼らにとって、日本の現代アートは表現の幅が広く、魅力的だ」
年収100万台湾ドル以上の富裕層、投機目的で高い購入意欲
台北市内に日系画廊も集中開業
現代アートの購入目的は、趣味か資産運用の二つだが、台北では純粋に好きで買う趣味の人が半分を占めていると感じるとチャン氏は言う。現代アートは、作家も鑑賞者も買い手も若い。その分安く入手しやすい。そこに「昔から新しいもの好き」という台北市民の気質もあいまって、市場を膨らませていると分析している。
もう半分の投機目的の人々は、アートを購入した後、オークションで売って儲けようとする、年収100万台湾ドル以上の層だ。これだけの年収があれば台湾では比較的、裕福な暮らしができるといい、購買意欲は高い。台北市では、40~44歳の16万8千人弱、45~54歳の35万7千人弱が当てはまる=写真1参照。
日本の現代アートに特化したフェア「インフィニティ・ジャパン」が狙うターゲットも、年齢35~54歳で、年収100万台湾ドル以上の、暮らしに余裕のある人々だ。特に、45~54歳の台北市民は、平均年収が100万台湾ドル以上で、かつ日本の現代アートに最も関心を持っている層でもあるという。
そうした富裕層は、台北市の松山区、大安区などに住む。台北市12区のうち平均年収トップ5は表の通りだ=写真2参照。この高収入層の集まる地域に近年、日本の画廊が次々と支店を開いている。2010年に村上隆のカイカイキキが開いたのにはじまり、15年に日動画廊、17年に白石画廊がオープンした。この間、11年にチャン氏の経営するユースペースギャラリーが開業、13年からインフィニティ・ジャパンが始まっている。
「インフィニティ・ジャパンの盛り上がりを見た台湾の画廊の多くが、日本のアートを扱いたがるという動きが起きている。日系画廊の開業や日本アートフェアの開催で、手軽に日本の現代アートに触れ、買う土壌が出来上がりつつある」と、チャン氏は見ている。
ちなみに、どんな作家や作風が台湾で好まれるのか。チャン氏の答えはこうだ。
「絵とか彫刻といったカテゴリーは関係ない。長年扱ってきた勘で強いて言うなら、新しい、これまで見たことがないような表現方法、素材、メッセージが歓迎される。台湾のコレクターは、コンセプトやメッセージ性がはっきりしている作家を好む印象がある。アーティストがどんなメッセージを込めたか、どんな視点を持っているか、聞けば答えられるものがあると、反応が良い」
(グラフはすべて、講演会で示されたもの)
(この項続く)(2017・10・7、元沢賀南子執筆)