つたえるーむの組織図

シャープがクラウドを提供し、鍵、ネット、ドアホンの会社と協業したマンション向けサービス「つたえるーむ」=アルテリア社のhpから引用

 ヘルシオやロボホンなど、さまざまな製品でIoT化を進めるシャープ。個々のセンサーから送られたビッグデータを解析することで、いろいろな傾向やノウハウが蓄積されつつある。そうした知見を生かして、シャープは今後、IoT(モノのインターネット)技術によるコンサルティングやAI(人工知能)技術による業務支援など、企業向けの事業(BtoB)に力を入れるようだ。

 7月20、21日に開かれた「ソフトバンクワールド2017」での講演で、シャープIoT通信事業本部IoTクラウド事業部の白石奈緒樹・事業部長が話した。「シャープの商品で培ったAIoT(AI+IoT)を、企業に使ってもらえるようにしたい」

 すでに、マンション向けのIoTソリューション「つたえるーむ」への参加を発表している。光ネット回線の「アルテリア」、インターホンの「アイホン」、電子錠の「アッサアブロイ」との共同事業で、シャープはクラウドサービス「COCOROボード」アプリを提供している。

 このボードは、マンションに入居している家庭ごとの専用ボードで、セキュリティー上、登録した家族以外の人は勝手に入ってこられない。カギとカードの両方で対応できる。子供が帰宅して玄関の鍵を開けたり、カードを持っている家族が外出したりしたら、ボードに通知が来る。鍵をかけ忘れたか確認したい時は、問い合わせれば教えてくれるし、遠隔操作で施錠することもできる。技術的には開錠もできるが、防犯上、閉めるだけの設定にしている。留守中に宅配便が来たらインタホンの画像を送ってくれる。他に、留守番をしている家族の見守りなど、さまざまなサービスに対応できる(上図参照=アルテリア社hpから引用)。

 また、今後、シャープは、家庭向けで培った技術とノウハウを、企業向けの技術として展開することも考えている。家庭用に、いろいろな人、モノ、サービスを音声でつなぐAIoT「ホームアシスタント」を提唱してきた。音声対話、音声コントロール、感情表現の三つの技術から成る。これを生かせば、例えば、ホテルやレストランの受付、デパートなどの案内、イベントでの演出、介護の見守りサービスなどへの応用が期待できる。コールセンターやユーザーサポート、自動音声応答システムなどの業務にも対応できる。

 IoTが進めば、今どんな状況・心境にいるのか、顧客側のデータが分かるようになり、ロボホンで培ったようなタイミング・話し方などのノウハウを生かせば、より効果的なコンタクトや問いかけができるようになる。また、そうした顧客ごとの状況に最適な、話し方や説明の仕方をオペレーターに助言することも可能だ。コールセンターでの問い合わせへの自動応答でも、AIを活用すれば、専門的な質問への専門家による回答を蓄積して活用する仕組みが構築できるだろう。

 IoT家電によるユーザーとの対話のビッグデータから、ヒトとの対話の特性や対処法というノウハウが得られ、シャープが他社に売れる商材となりつつある、ということだ。IoTによって、これまではデータにならなかったものがデータとして顕在化し、蓄積されてノウハウとなり、商材となる、という一つの好例だろう。

 シャープは2017年~19年度の中期経営計画で、AIoTと8Kを二本柱とする方向性を示している。家電、スマホからソーラーシステムまで、すべてをクラウドに絡める。すべての家電や設備がネットにつながる「スマートホーム」を目指し、6年前から商品をクラウドにつなげるサービスを始めた。音声対話やデータセンシング(機器側のデータを取る技術)などのAI技術や、クラウドにつなぐウェブAPIなどIoT技術も開発してきている。

(この項終わり、元沢賀南子執筆)