ソフトバンクワールド2017で20日、シャープは、IoTへの取り組みの一例として、ウオーターオーブン「ヘルシオ」の事例を紹介した。消費者にメニューや作り方を提案する対話は、深層学習(ディープラーニング)によって深めるため、各家庭ごとにカスタマイズでき、より個別に最適な助言ができるという。ただし、残念だったのがその宣伝動画の内容だ。技術は革新できても、企業の価値観や体質はそうそう簡単には変えられない、ということが、図らずも露呈されてしまった。
ヘルシオのプロモーション用動画は、こんな風に始まる。壁際にヘルシオが置かれたアイランド型キッチンと、手前に食卓テーブルのあるダイニング。夫と小学生ぐらいの娘が食卓で遊んでいるところへ、妻が慌てて、食材の入った買い物袋とカバンを抱えて帰ってくる。
仕事帰りなのだろう。妻はそのままヘルシオに向かって献立を相談し、食事を作る。ただ待つだけの夫と娘。さらに食後、今度は妻は洗い物をしながら、娘に惣菜の感想を聞く。「おいしかったよ」。その感想をヘルシオに伝える妻。
その後も、ヘルシオに献立を相談する妻の姿が何度も繰り返される。ヘルシオから「最近は野菜を食べていない」とメニューをアドバイスされたり。新しいメニューの作り方を一つひとつ指示されて、その手順通りに作ったり。「冷蔵庫に何と何があるから何ができる?」とヘルシオに聞いたり。いずれも、ヘルシオに相談し、作るのは妻だけ。夫も娘も食べるだけだ。
動画は結局、ヘルシオと妻の会話だけで終わる。娘も夫もヘルシオには働き掛けない。何を作ろうかという相談に乗ってくれ、かつ、作り方も教えてくれるのに。それほど賢く、学習して助言をしてくれるなら、相手は妻じゃなくても、夫でもいいだろうに。子供でも。
この動画では夫はいなくても構わない存在だ。仕事をして帰ってきてご飯を作って片付けるのが、すべて妻の仕事になっている。ただ食べるだけの夫なら、いてもいなくても同じこと、ヘルシオさえいれば夫はいらない、というブラックジョークなのだろうか。
せっかくヘルシオが賢い、という動画。ならば、その賢さを利用して、夫も子供でも料理ができましたよ、ママだけに苦労させないよ、といった物語になっていたら、どれほど素晴らしかっただろう。シャープの中で働く人たちの価値観が透けて見えてしまった。残念ながら、21世紀の今になってもなお、「食事は妻が作り妻が片付けるもの」と思っているのね。
鴻海精密工業の傘下に入ったのを機に、シャープは社内改革をしたのだと、誇らしげにプレゼンしていたのに。
本当に残念だ。
(2017/7/23、元沢賀南子執筆)