カルビーの松本晃会長は、会社よりも個人が大事だと明言する。個人が生き生きと魅力的であれば会社の業績も上がるはず、という思想に基づく。あくまで成果を上げるための方策だという。
だからこそか、単なる提言ではなく、本気の覚悟を感じる。それはこんな言葉にも現れる。
「上司は部下の時間を奪うな。
部下の時間を奪うから、部下が残業することになる。反省しろ。
だから、ノーミーティング・ノーメモ。
無駄な会議もメモもいらない。会議があるからメモがいる。でもメモなんて何の役にも立たない。
テレビ会議なんて時間の無駄。電話会議でいい」
事実、同社では女性管理職も多い。松本会長が「この人はベンチマーク」と目を付けた女性は、二児の母。従業員800人、売り上げ4百数十億円の事業本部長を任せた。
彼女への命令が「午後4時に帰れ」。何時に来てどんな働き方をしてもいいが、16時に帰れ、ライフワークバランスを取れ、と。4時半にまだ会社にいると「早く帰れ」とはっぱをかける。
こういう「残業をしない上司」の下では、部下も早帰りしやすい。従業員みなの意識が変わる。働き方が変わる。
「Just do it! やるしかない」と、松本会長。
松本会長はまた、こうも言う。
「会社は個人の幸せを奪うな。
社員を幸せにする方が、転勤させることよりずっと大事。
家族は一緒にいるべき。だから、転勤は拒否できる。
拒否しても、絶対に評価で差別・区別しない。どうぞ安心して、いやな転勤なら断っていい。
転勤なんて、させなくても何とかなる」
上司は部下の時間を奪ってもいい、会社は個人の幸せを奪ってもいい。むしろそれが当たり前なのが前世紀の「働き方・働かせ方」だった。
いまだ、その遺物のような制度や思想で人事を動かしている大企業が多い中、その常識の排除に、松本会長は取り組んでいる。労働が先に来る「ワークライフバランス」ではなく、まず生活ありきの「ライフワークバランス」を掲げる。
しかも、実際に会社は業績を上げ、増収増益を続けている。株価も上がっている。
「ダイバーシティ―が成長エンジンである」という思想を、理想に終わらせず、リアルな経営方針として実証している。
(4月25日、日本記者クラブで開かれた松本晃会長の会見「JUST DO IT! ~カルビーのダイバーシティ―と働き方改革~」から)