投資したくなる会社4~さわかみファンド運用報告会から

日本電産の告知

日本電産は最近、企業CMに力を入れている=さわかみファンド運用報告会のパンフレットから

 さわかみファンドを運営するさわかみ投信が大阪市で9月2日、運用報告会を開いた。一般投資家向けに事業内容を説明した30社の中から、投資したくなる魅力的な企業を紹介する第4回は日本電産(Nidec、東証6594、本社・京都市)。最近は、俳優佐々木蔵之介が出演する「自動運転技術」をPRするテレビCMで知られる、モーターを中心としたメーカーだ。今年度1兆3700億円(予想)の売上高を、2020年には2兆円、30年には10兆円と、13年後に8倍にすることを目標としている。

 佐々木蔵之介が出演するCMで強調されるのは、自動車の「自動運転」と「衝突回避」に、日本電産の技術が使われているという点だ。同社は、「すべての回るもの、動くものをキーワード」にしたモーターのメーカー。「精密小型モーターでは世界No.1」(同社hpによる)という。

 技術力を背景に、世界市場で高いシェアを誇る製品が数多い。例えば、HDD用スピンドルモータ、世界シェア85%▽光ディスク装置用モーター、同70%▽振動モーター(携帯、スマホ用)、同40%▽デジカメ用シャッター、同75%▽カードリーダー(銀行端末用)、同80%▽液晶ガラス基板搬送用ロボット、同70%、などだ。

 同社のIR担当者は「製造業の会社としては、世界に通用する技術力があるだけでなく、それを安く作れる生産設備を持っていることが重要だ」という。

 日本電産は1973年に京都で4人のエンジニアによって創業された。最初は自前の工場もなかったが、当初からモーターに特化していた。88年に大証、京証に上場、98年に東証1部に上場。2017年3月末には、グループ会社が43か国297社に及び、社員総数は全世界で約10万7000人に上る。うち日本人は9000人未満で、経営トップは日本人ながらグローバル企業と言える。

 経営理念は①雇用を創出する②なくてはならない製品を作る③世界トップを目指す、の三つ。2025年に売上高5兆円、30年に10兆円を目標としている。いまの8倍に当たるが、そのための施策として①自律成長50%+M&A50%②社員研修③技術力向上(生産技術研究所開設)を掲げる。

 M&Aの数の多さと多様さは、他社と比べても際立っている。84年に最初の買収をして以来、昨年も2社買収し、今までに計56社も買った。精密小型モーターや車、家電等で、大半は米欧など海外の会社だ。

 M&Aは、「技術・販路を育てあげるために要する『時間を買う』という考え方」(同社hpから)から進めている。過去に、「失敗した買収はない。のれんの償却や赤字は一度もない」と、IR担当者。2010年には精密小型モーターが牽引していた事業構造を、買収先の重点を車や家電へと変えて転換。結果、車も家電も売上高6000億円を上げられるまでに伸びており、今後の重点事業の需要に対応できる技術力・生産体制をすでに備えたと、胸を張る。

 背景には、伸びる産業分野への集中こそがメーカーとしての生き残りにつながるとの戦略がある。過去の体験からも明らかだ。

日本電産のシェア、株主向け資料

世界的にシェアトップの製品が多い=日本電産の個人株主向け資料から

 当初、日本電産の上場と成長を支えた中心製品はHDD(ハードディスクドライブ)だった。76年に創業したアップルが大事な顧客だったのに加え、82年にIBMが参入し、HDDがパソコンの主要データの保存装置として定められた。82年から2010年までの間、日本電産製のHDDはグローバルマーケットシェアの60%を占め、最高時は90%に達した。

 パソコン出荷台数が70~80万台とピークだった2010年、20~30万台のHDDを同社が占めていた。HDDだけで6億5000万円を稼ぎ出した。成長の背景には市場の伸びがあった。「マーケット自体の成長がなければ、技術力だけではここまでの成長は難しかった」(IR担当者)。

 だが、2010年をピークに、簡単で軽いスマホやタブレットへと、消費者の嗜好は移る。パソコン向けHDDの需要は減り、SSD(フラッシュメモリを使った記憶装置)にとって代わられた。2016年にはHDDは4億2400万円へと減った。需要の35%が無くなった計算だ。「2010年がピークだと分かっていた人は誰もいない。景気は分からない。ピークの前から次を準備しておかないといけない」(IR担当者)。

 日本電産の場合、HDDの落ち込みを補ったのが、家電や車の分野だという。電動パワステには95年から参入しており、準備が今生きている。納品先をITから車、家電へと変え、2020年には売上高2兆円を目指せるところまで来た。

 現在の時価総額は3兆円強で、95年から現在までの伸び率は61倍になる。この間の成長率は、世界で1位はアマゾンの600倍だが、日本では1位がソフトバンク、2位がユニクロ、3位が日本電産という。IR担当者曰く、「アマゾンはべゾス、ソフトバンクは孫さん、ユニクロは柳井さん、日本電産も代表取締役会長兼社長の永守重信と、いずれも、創業者が長く経営している会社。創業社長が長く率いることは、時価総額が上がる成長企業に不可欠な要素」という。

(この項続く)(20170921、元沢賀南子執筆)