今回で3回目となった福岡市の「アートフェアアジア福岡」。9月8~10日の3日間、会場となったホテルオークラ福岡9階には、コレクターや一般鑑賞者だけでなく、アーティスト本人も多数訪れていた。
マカオ出身で北海道で写真作品を撮っているシーズン・ラオさんは、画廊「雅景錐」(京都)から写真作品を出展した。「人と自然との調和がテーマ」と言い、写真を手すき紙にプリントしている。被写体は北海道の炭鉱跡の雪景色などで、セピア色のプリントの中で産業遺構である人工物だけをカラープリントした。「都市の発展の陰で発生した問題へのメッセージ」と言う。
宮崎県延岡市出身で、宮崎市内にアトリエを持つ小松孝英さんも来福していた。蝶、龍、伝説上の生き物など古典的な画題を、カンバスにアクリルで描き、金箔銀箔を施す。さながら日本画だ。最近では、地元・延岡市役所の新庁舎用に企業からの依頼制作で壁画を納めたり、トヨタ・レクサスなど企業からの依頼による工業製品の原画を手掛けたりと、依頼制作も多い。「みぞえ画廊」(福岡・東京)の部屋では、ダブルベッドの上に、妖艶な美女のごとく、金箔の地に蝶が舞う日本画調のアクリル画が横たえられていた。
バイトをしながら作品を発表している若手も多い。松谷博子さんもその一人。「天野画廊」(大阪市)で出展した木版画はいずれも、週3、4日のバイトの休みや仕事後の夜に制作した。20センチ角ならば1時間で出来ることもあるが、180センチ角の作品は彫り上げるのに1カ月ほどかかる。版木は1刷で、黄色い和紙に白や黒で刷る。
編み目のような複雑な幾何学模様で描かれる世界は、見る人や見方によってさまざまに想像できる。鳥に見えたり、細胞構造の3次元データのようだったり。学生時代は下絵を描いたが、「考えたものしか出てこない」からと、今は描かない。あらかじめ彫るものも題名も決めずに、「手の動きから自然に出てくるもの」を彫る。完成形を目指すわけではないので、「彫り終わりを決めるのが難しい」。タイトルも、見る人のイメージを固定しないよう、「wandering」シリーズの何番などと抽象的に付けている。
作家の成長を同時代で確認、現代アートの醍醐味
こうしてアーティスト本人が滞在していることも少なくないので、気になる作品について直接、当人に話が聞けるのもアートフェアの利点だ。最大の楽しみは、様々なジャンル・作風の作品が一挙に集まっていること。美術館のようなガラス越しではなく、間近に、多様な作品群が見られ、どんなテイストが好きなのかという自分の趣味嗜好が確認できる。
フェアで現代アート作品を買うことには、将来の有名作家を「青田買い」するという投機的な目論見もあるだろう。だが、それ以上に、同じ時代に生きている現代の作家と一緒に年を取りながら、成長や変化を見続けられることこそが、現代アートの醍醐味(だいごみ)だろう。自分の感性に合った作家を経済的に応援するためにも、気に入った作品は買うに限ると筆者は思う。ぜひ手元に置いて、アートのある暮らしを体感してほしい。
(20170925、元沢賀南子執筆)
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