「『やめられない、とまらない』組織改革」
「両性がいるなら使うのが当然」「成果を上げるための長期投資」
カルビー・松本晃会長兼CEO
ダイバーシティーはゴルフと同じ――女性活用の先進企業として知られるカルビーの松本晃代表取締役会長兼CEOが4月25日、東京・日比谷の日本記者クラブでの会見でこう語った。「世の中には男性と女性がいる。なぜ片方だけしか使わないのか。ゴルフと同じ、両手で打つ方がうまくいく」。就任後の8年、毎年10%増収・20%増益を続け、ROEを10倍に上げた松本会長。グローバルな競争に勝つため、組織改革は「やめられない、止まらない」といい、女性の次は高齢者の活用を視野に入れる。
ダイバーシティーは同社が進める組織改革の一つだ。仕組みを変えるのは働き方を変え、成果を上げるためで、長期投資と位置づける。
かつて90年代初頭まで、日本の企業は日本人・男性・シニア・有名大卒という同質の存在だけで構成されていた。当時は業績や成果は時間に比例していた。長時間労働は雇用主・従業員の双方にとって良かった。
だが冷戦後のグローバル化が、状況を変えた。労働時間の長さではなく成果が求められる。そこで、女性や外国人など多様な人材を活用するダイバーシティーとなる。
「世界と闘わなくてはいけない今、能力のある人は使わないと勝ちようがない。なぜダイバーシティーかといえば、それが成長エンジンだから」と松本会長。金はかかるが「コストではなく投資だ。こつこつ長い時間がかかる長期投資と思わないと」。
社員の多様性の意義を問われて、ゴルフをたとえに出した。右手だけで打っても、左手だけでも、うまくいかない。両手で打つからうまく飛ぶ。「世の中には男と女しかいない。日本の企業の多くは、なぜ、女性がいるのに使わないのか、両手を使わないのか。うまくいかなくて当たり前」
「女性は能力がある。どのくらい優秀かといえば、男性と同じくらいに。男性も優秀。女性と同じくらいに。両方を使わない手はない。単純に、そういうこと」
ただし、既存の男性管理職は言い訳もうまい。女性を使わない理由として、よく語られるのが、①登用しようにも女性がいない②女性自身が管理職になりたがらない、の二つ。
だが松本会長は、いずれも嘘だと断言する。女性の人材はいるし、登用すれば優秀だ。名誉や権力や地位ではなく、責任と報酬のバランスが取れていれば女性は管理職を受ける。事実これまで断られたことはない、と。
ワークライフではなく「ライフワーク」バランスを
松本会長が繰り返したのは、背景にある企業間競争の厳しさと、個人の時間や幸せを会社が収奪すべきではないという視点だ。会社に必要なのは長時間労働ではない。社員一人ひとりが豊かで魅力的であることが、生き残る方策だと考える。
その証左が、同社が掲げる「ライフワークバランス」だ。労働が先の「ワークライフ」ではなく、まず生活ありきの「ライフワーク」バランスだ。
「仕事には、①しなくてはいけない仕事②した方がいい仕事③しなくてもいい仕事、がある。②も③もするな。大事なのは①だけ。それが終わったら帰れ、と言っている」と松本会長。
早く帰って勉強をしたり、文化的な教養を高めたり、運動をしたり、家族との時間を持ったり。人生が変わると、魅力的な人になり、会社に貢献してくれ、会社も儲かる――という好循環につながる、と考える。
上司が無駄に部下の時間を奪うな、残業をさせるな、との考えから、「ノーミーティング、ノーメモ」も松本会長は提唱する。会議や書類は極力やめる。それで時間の無駄を減らせる。
社員には転勤拒否権もある。会長就任直後に「転勤は拒否できるし、それによって評価で差別されない」と決めた。これも、会社より、社員の幸せの方がはるかに大事との思想からだ。
「もともと、転勤でぐるぐる回すのは大嫌い。会社が個人の幸せを奪うべきではない。できる限り家族は一緒にいるべき」。会社にとって必要な転勤もあるが、断られてもどうにかなる、という。
在宅ワークも認める。自宅で週2回までだったのを今年4月に「ようやく」(松本会長)拡大。成果さえ挙げれば、会社でも自宅でもスタバでも、どこで働いてもいい制度が始まった。
2020年には女性管理職30%達成予定
結果、同社には女性管理職が目立つ。松本会長自身は「遅すぎる」とはっぱをかけるが、取締役7人のうち女性が2人、うち1人は外国人だ。上級執行役員は7人中1人、執行役員は16人中6人、工場長は13人中2人が女性。海外も最大規模である北米が女性支社長だ。2020年には管理職の3割を女性に、という国の目標「2030」に間に合う予定だ。「なでしこ銘柄」に認定されるなど、女性活用が表彰され認められている。
一方で松本会長は成果にはこだわってきた。成果が悪いとダイバーシティーのせいにされるからだ。ポテトチップスの国内占有率は現在74%、ポテト商品は77%、スナック菓子は60数パーセント、スナック菓子で54%と、いずれも国内でダントツの1位だ。売上は毎年10%、利益は20%上昇し、会長就任前に1.5だったROEはいま10倍の15近い。
そんな松本会長が女性活用の次に目指すのは高齢者活用だ。年齢に関係ない働き方を「早くやらないと」という。「定年があるのは日本だけ。60歳で辞めろという必要はない。月給は半分になるけど65歳までいますか、なんて日本だけ。その代わり、年を取ったからって、いいこともない。能力がある人、結果が出せる人と一緒に闘わないと」
「魅力的な人がいない会社はダメ。人がよくなり、会社がよくなると国もよくなる。抵抗勢力に負けず、成果を上げるためには、徹底的な変革が『やめられない、とまらない』」
こんな会長の元で働きたかった、と思うのは私だけではないだろう。多くの同輩のため息が聞こえてきそうだ。
(2017・4・27、元沢賀南子執筆)