退社から翌日の出社までの合間「勤務間インターバル」は、短いと心も体も不健康になり、12時間を切ると特に悪化する――こんな研究が、厚生労働省が3月1日に開いた企業向けセミナーで披露された。電通の女性社員の過労自殺事件を機に注目される「働き方改革」。今年度内に政府は実行計画をまとめる予定だが、勤務間インターバル制度も対策の一つに挙がっている。導入を促すため、同省は中小企業向けに助成金の受け付けも始めた。(Ⓒかなこ企画)
オフ12時間、「起床時ぐったり」16時間の約2倍
労働安全衛生総合研究所の調査による。セミナーで講演した同研究所産業疫学研究グループの高橋正也部長(医学博士)によると、翌日の勤務までの時間が10~12時間しかない人は、16時間あった人に比べて疲労、不安、抑うつ、食欲不振、不眠といったストレス反応や、起床時の疲労感が2倍近かった。また血圧も、勤務間を長く確保できた人ほど低くなった。3年前から日本のIT企業で調査中だ。
「勤務間が12時間を切ると特に悪化する。12時間とは、夕方6時に退社して翌朝6時の出勤。EUの法定の勤務間最低休息時間は11時間だが、6時退社なら9時出社という15時間インターバルくらいのほうが、日本人には合うかもしれない」(高橋部長)
ちなみに、病院看護師約1200人を対象にした2014年の海外での調査でも、勤務間のオフが短いほど不健康になっていた。法定の最低水準11時間以下の人は「強い眠気」「過労症状」「睡眠障害」のいずれも、1年後により悪化し、法定を守っていた人は症状が改善していた。
ただし、勤務間インターバル制度の導入には課題も多い。救急医療の現場や長距離運転手のように長時間労働が不可避な職種は対象除外にするのか。外回りで直行直帰の多い従業員や在宅ワークなどはどう扱うか。そもそも勤務間は何時間が適正か。総労働時間と勤務間の双方で規制をしないと過重労働対策にならない、という指摘もある。
これまでも厚労省は、過重労働対策として、ワークライフバランス(WLB)や休暇取得率の向上などを図ってきた。労働者が心身ともに健康で働けるほうが、高パフォーマンスが期待でき、企業や経営者にとっても有利と考えるからだ。
WLBの理解、上司にないと心血管系の病気増
WLBについても、理解のない上司の下では、理解ある上司の下に比べて、より心血管系の病気の発生率が高まり、睡眠の質や時間が悪化するとのデータがある。休暇取得では、健康に不安を抱えた男性は、休暇がゼロの場合、適度に休んだ人の2倍も心臓病になりやすいと調査で示された。
高橋部長は言う。
「これまでは職場内の安全対策だけだったが、今後は退勤後の時間と質の確保が課題だ。国、事業所だけでなく従業員自身の問題でもある。適切な睡眠をとり、家族と過ごし、趣味を楽しむ。勤務間の時間の質が確保できれば疲労が回復でき、次の勤務がよくなり、会社にもプラスになる。労働生活の質をより良くするのが目的で、労働者の人生全体をよくすることにもなる」
厚労省の助成金は、勤務間インターバル制度を新たに導入する中小企業が対象。就業規則や労使協定などを作成・変更するためのコンサルタント代、ソフト導入代など費用の一部を補助する。1企業あたりの上限は50万円(勤務間の定めが11時間以上の場合)。申請期間は今年12月15日まで。
(2017年3月1日執筆)Ⓒかなこ企画