かわせみやませみ車両

JR九州が2017年3月に運行を始めた特急「かわせみやませみ」=JR九州の資料から

「ななつ星」で豪華列車の旅ブームの先鞭をつけ、女性に人気の「ゆふいんの森」などデザイン性の高い特急列車で国内外の観光客に支持されるJR九州。鉄道以外にも、ホテル、レストラン、駅ビルなどの事業も手掛け、昨年10月に上場、決算後も株価は好調だ。新しいことに取り組み、成功できた秘訣を「自分たちでやったことと、トライアンドエラーを繰り返したこと」と、青柳俊彦社長は語った。

8月8日、日本記者クラブでの会見で話した。

JR九州といえば、まず思い浮かぶのは3年半前に運行を始めた「ななつ星」だろう。昨年の熊本地震や今年の九州北部豪雨の影響で一部の路線が使えずルートを変更しているものの、現在も人気は高い。JR東日本の「敷島」、JR西日本の「瑞風」が後を追い、日本中を豪華列車が走るブームを呼んだ。来年3月からは、門司港の散策の時間を多く取り、阿蘇に入るルートを計画中という。

もう一つの特徴が、ななつ星と同じデザイナー水戸岡鋭治氏が主に手掛けた「D&S(デザイン・アンド・ストーリー)列車」だ。熊本、鹿児島、宮崎、大分などで計11の特急が定期運行をしている。熊本地震があったにも関わらず、昨年度は67万人が利用。乗車率は高く、「海幸山幸」は91%という驚異的な数字だ。平日はインバウンドの外国人、土休日は日本人と棲み分けができているという。

今年3月から運行を始めた最新のD&S特急「かわせみやませみ」(熊本―人吉)は、地元産のヒノキ、杉を使っている。樹齢100年以上、天然乾燥10年以上の最高級ヒノキを地元から提供され、列車の中はカウンター、椅子から床まで木製だ。一緒にストーリーを作ろうと、地元の人からも話を聞いて作った。

こんなふうにJR九州が成功してきた最大の理由を、「自分たちの手で取り組んだ」ことだと、青柳社長は強調した。

「お金を出して誰かにしてもらうのではなく、自分たちでやった。自分たちで汗をかいて責任を持って取り組んだ」「やってみないと分からない、と。会社がひっくり返らないのなら、やってから考えようと」

JR九州乗車率

高い乗車率を誇るJR九州のD&S列車=同社の資料から

今では順風満帆に見えるが、1987年の民営化当時は、300億円近い赤字と1万5千人の従業員を抱えていた。うち3千人が余剰人員だった。

本州のJRと違って圏内に大都市がない。食い扶持を稼ぐため「何とかしなくちゃならない」。最初の10年は「何でもしてやろう」と様々な事業に手を出したという。

自動車販売もすれば、地下水を売ったり、「うまや」などのレストラン事業をしたり。特に、バブル後、金利が下がったことで「お尻に火が付いた」。利子が下がり、本州社は債務利子負担が軽くなっただろうが、JR九州は鉄道の赤字が埋められなくなった。本気で鉄道以外に稼ぐ道を探さないと生き残れないと、真剣になったという。

失敗して、やり直したり諦めたりしたものもある。自動車販売は早々に撤退した。トライ・アンド・エラーを繰り返す中で、最終的に何が良さそうなのか法則も見えてきた。途中から力を入れ始めた、JR九州ホテルや「アミュプラザ」などの駅ビル、レストランといった、鉄道と相乗効果を生む事業が、今、うまくいってきている。

本業以外の「次の成長戦略」をどう打てばいいか迷う企業は多い。本業がうまくいっているうちに次の新しい芽を探す場合もあれば、JR九州のようにそもそも本業も赤字で立て直しを図らなくてはいけないこともある。コンサルタントなど外部の知恵を借りたくもなる。同社が試行錯誤の果てにたどり着いた「本業と相乗効果を生む事業がいい」という結論は、最初からコンサルタントに任せても同じ提案がされたかもしれない。

JR九州の場合、お金がなかったことが逆に幸いしたと言える。コンサルタントに頼む余裕がなかったから、社員に、自分たちで考え、何とかするんだという自覚が芽生えた。他人任せではない、自主性を引き出すことになった。後がないという危機意識が、何でもやってやろうという意欲につながった。「やってみないと分からない」というトライを許す企業風土のおかげもあって、新しいことへの挑戦を繰り返せた。

コンサルタント任せにした時と、もし結論が同じだったとしても、過程に意味があっただろう。人が育ったからだ。結果として、さまざまな事業や、人気を牽引する特急やななつ星が誕生した。

JR九州青柳社長

「次の目標は、西ルートの新幹線で、鹿児島ルートのようなD&S列車の展開を考えること」と語るJR九州の青柳社長=8月8日、東京・日本記者クラブで

もちろん、鉄道事業の将来性が厳しいことには変わりはない。過疎化で乗車率の低いローカル線を抱え、廃線も含めた本業全体の再検討も必要になるだろう。地震や豪雨による水害を始め自然災害との闘いもつきまとう。

常に地道に、本業の見直しをしつつ、新しいことへの挑戦を続ける。恐れずトライする社員を、受け入れる企業風土を持つ。そうする持久力と胆力が、企業トップには必要だということだろう。

(2017.8.10、元沢賀南子執筆)