賢いと話題の自動音声翻訳ソフト「マイクロソフト・トランスレーター(MST)」。どのくらい使えるか、実際に日本語でしゃべって英訳させてみた。その結果、六つの特徴が見えた。1、日本語は英語に比べて相当苦手、2、接尾語が聞き取れない、3、主語がない時は勝手に「私は」にしてしまう、4、疑問文を肯定文にしてしまう、5、テレビやラジオの音も拾ってしまう。いよいよ六つ目だが、最後にポジティブな発見を。

 6)でも、語学の練習・学習になら使えるかも。

 悪いところばかりではない。一つは、英語表現の確かさだ。ネイティブの人々が使っているものから学習したため、ネイティブ的な言い回しを勉強するのに向いているだろう。しかも、ネイティブに近い発音で読み上げてもしてくれる。

 単語や慣用句、簡単な言い回しなどは、日→英も英→日も、辞書代わりにどんどん使えるだろう。音声認識ということは、つまり耳コピができるということで、辞書を引かなくてもいい。英語で言われて、スペルが分からなかったり、早口でつまって聞こえた時など、耳コピで話しかければ、正しいスペルと和訳を教えてくれる。英語での発音やイントネーションを知りたい時にも、電子辞書代わりに使える。

 文章表現でも、日本語でしゃべって(または日本語のテキストを打ち込んで)、トランスレーターに英訳させたものを見れば、「こういう表現でいいのか」という勉強にもなる。ニュアンス的に違う時は日本語を説明調にするなど工夫すれば、よりぴったりの英語での言い回しが見つかる。自分の英語翻訳力を高めるのに使えそうだ。

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 --というわけで、MSTの現状での使い勝手について縷々書いてきたが、つまりは、日本語の会話における曖昧性が、聞き取りや翻訳の壁になっているのだ、と分かる。主語が抜けていたり、その理解を語尾のニュアンスだけで補ったり、最後まで聞かないと肯定文か否定文か疑問文かが分からなかったり、という、日本語の特性から来るものだ。

 かつて私は、通訳を介して外国人と話す時には、通訳が意味を取り違えず、かつ訳しやすいように、次のことに気を付けていた。①必ず、主語を言う、②文章を短く区切る、③(特に主語+述語+目的語の順で文章を構成する欧米語への通訳の場合)結論を先に短い文章で示し、その後に説明を加える、といった点だ。

 MSTも外国人と同じ。母国語が日本語じゃない機械なのだから、外国人と同じ前提で、ゆっくり、滑舌よく、丁寧に、説明的に話しかけてやるしかない。ただし、人間とは違って習熟度は速いはずだ。数年後には、こんな苦労が笑い話になるくらい、ニュアンスまで訳せるほどに日本語がうまくなっているかもしれない。(この原稿を書いている間にも、もしかしたら、ものすごく賢くなっているかもしれない!)

(この項終わり)

(2017・8・3、元沢賀南子執筆)