投資したくなる会社2~さわかみファンド報告会から

トプコンの沿革

トプコンはもともと陸軍に納める測量メーカーとして始まった

 さわかみファンドを運営するさわかみ投信が大阪市で開いた運用報告会で、一般投資家向けに事業内容を説明した30社の中から、投資したくなる魅力的な企業を紹介する2社目はトプコン(東証7732、本社・東京都板橋区)。IoTを建機、農機、医療用検査機器に導入したメーカーだ。前回は建機と農機について報告したが、今回は眼科用の検査機器をクラウドにつなげて診断を補佐するシステムについて。

 同社は、「医・食・住」の社会問題の解決を目標に掲げる。食は、世界的に人口が増加して食糧不安の問題が出てきている。住インフラは、新興国だけの問題ではなく、日本では人手不足だ。五輪前で仕事は増えているが技能者が足りない。医療は、さまざまな病気の研究が進んで命が長持ちするようになった一方、眼科の研究は長寿化に追い付いていない。そこで、農機や建機の自動化で農業増産やインフラ整備に貢献し、眼科の検査診断機器の開発で予防医療に貢献したいという。

 「EC(アイケア)事業」は、眼科検査・診断機器、眼科治療機器などの製造から、電子カルテや遠隔診療などのシステムによるITソリューション事業までも含む。検査機器は、研究者用の高機能なものから、健康診断や眼鏡屋で素人でも使えるものまで。売上高は429億円(17年3月期)と、同社の売上高の33%を占める。また「3D-OCT」という眼科用の3次元診断機器は、シェア30%と世界トップの圧倒的に強い製品だ。

 「3D-OCT」は目の3次元データが撮影できる診断機器だ。以前は眼底カメラで、撮影には技能が必要だった。画像による診断も、平面的なので読み取るのが難しく、医師に経験と熟練がなければ見落とす危険性があった。

 その点、「3D-OCT」は操作が簡単なのが特徴だ。タッチパネル式で、画面を押すと機械が指導してくれる。世界初のシステムで、経験が少ない人でも間違えない。誰でも眼底写真が3次元で撮れる。しかも、画像は3Ⅾなので網膜や硝子体などの厚みまで分かる。医師が診断をしやすくなる。

 国内だけで14万ある眼科医院が買い替える可能性があり、ビッグビジネスが期待できる。競合は世界で7社。2位のカールツァイスもシェア3割のシェアを持つが、他はハイデルベルグ、オクトビュー、ニコン、キャノン、ニデック。トプコン社製は、商品名は「マエストロ」で1台500万円。ほかに、研究用の多機能なハイエンド商品「トリトン」も製造している。

トプコンのアイケア事業

トプコンのアイケア事業は、検査・診断・治療だけでなく、電子カルテや遠隔診療など事業領域の拡大を見込んでいる=大阪市内で

 トプコンでは、目の3次元データはクラウドで共有し、ビッグデータとして処理する。高齢化で、緑内障や白内障、加齢黄斑変性症などの病気リスクは高まる。正常・健康な目だけでなく、さまざまな病状のデータが集まるので、正常値との比較で病気の兆候が見つけやすくなる。機械側が医師に、正常値とどのくらい違うか、どの病気の疑いがあるのか、などビッグデータと照合した結果を、参考として示唆できる。未熟練の眼医者の診断を助け、病気の見落としを防げる。検査をするなら、この器械がある眼科医がいいということになるだろう。

 電子データをクラウドに上げることは、将来的な様々な展開にもつながる。「3D-OCT」で撮影した目の3次元データを電子カルテ化して、専門医が遠隔診断することも可能だろう。日本では遠隔診断はまだ法的に難しいが、米国ではすでにクラウドのデータを遠隔診断に利用し始めたという。大病院に行かずに、眼鏡屋などの検査で撮ったデータで初期診断が気軽にできるのは利点だ。大病院で並ぶのが嫌な消費者にとって検査のハードルが下がり、結果、予防的措置によって医療費が抑制できれば国にとっても朗報だろう。

 

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 トプコンの創業は昭和7年。埼玉県にほど近い東京都板橋区に本社がある。当初は陸軍に納めるセンサーや照準器などを作っていた。ちなみに照準器はトプコンが陸軍、ニコンが海軍と棲み分け、潜水艦用はニコンが作っていた。

 戦後、民需転換の難局時に東芝の完全子会社になった。その後、株主比率はどんどん下がり、最後は30%の子会社だったが、これも2015年に売却されて、トプコンは独立した。

 この間、脱東芝を進めながら、M&Aで海外の優秀なメーカーを買収し、事業領域を広げてきた。95年には米国の油圧制御技術を、2000年にはGPS技術を持った会社を、それぞれ買収。この二つの技術で建機のトラクター自動化事業に参入した。ブルドーザーなどの自動化には2000年から取り組み、自動制御する建機はコマツにOEM供給してもらう。2006年には、豪州でのトラクターの自動制御事業に参入した。建機の自動制御事業は、2015、16年ごろからようやくマーケットができてきた。

 古くから、自社が持ってない技術は海外ベンチャーの買収で身に着け、多角化してきた。不採算事業から撤退する決断が早かったことも幸いした。「カメラがうまくいかなくなった時、1980年代にいち早く辞めたから、今、会社が存続している」と、執行役員で広報・IR室長の仲雅弘氏は話す。

 現在の売り上げは、日本、北米、欧州がそれぞれ約4分の1ずつを占める。日本国内の売上高は23%に過ぎない。海外売上高比率は7割を超え、従業員も全世界に約4500人いる。関連会社(連結子会社)は85社(うち海外76社、国内が9社)。全世界に拠点も広がり、海外に生産拠点は17、販売拠点が34、開発拠点が28か所ある。

トプコンの測量技術

トプコンの強みであるIoT建機やIT農機は、もともとの核だった測量技術を基に作られた事業だ

 過去の業績を見ると、リーマンショック時の2009年に営業利益が赤字になったものの、13、14年に回復した。ただ、14年に米国で穀物が獲れすぎ、農業が大暴落した影響があり、IT農機についてはこの4月、5月でようやく回復できた。

 2017年度の業績は、大幅な増収増益だった。営業利益は前年度の7億円から13億円へ。POC(「住・食」事業)は2.3倍に、スマートインフラ事業(アイ・コンストラクション対応のIoT建機)は2.7倍。IoT建機、IT農機が伸びたことで、通期損益は当初予測を塗り替えた。

 株価は最近は2000円前後。直近1年は右肩上がりの傾向にある。かつては3000円超だったのが、15年に東芝が保有株式を売却したことを機に1000円前後まで下がっていた。

(この項終わり)(20170914、元沢賀南子執筆)